石川音盤探訪 #05|LIBRARY RECORDS(糸矢章人)
次世代に残したい名盤を求めて、北陸の小さなレコード店やディスクショップを巡る【石川音盤探訪】。
第5回目となる今回訪れたのは、能登半島のさいはて珠洲市狼煙町にある『LIBRARY RECORDS』。カレーとコーヒーの香りが漂う、レコードショップです。
LIBRARY RECORDS / いかなてて
クラブが教えてくれた音楽の魅力
ハウス、テクノ、ディスコ、ヒップホップなどのダンスミュージックをメインに取り扱いながら、ソウル、ジャズ、ワールドミュージックといった、ジャンルにこだわらないセレクトに定評のある『LIBRARY RECORDS』。なぜ、能登半島さいはての地でレコードショップを開業することになったのか、店主の糸矢章人さんにお話をうかがいました。
DJとしての顔も持つ店主の糸矢章人さん。中高時代はソフトテニスに明け暮れるスポーツ少年だったそう。
都会の喧騒とは無縁のチルアウトするにはもってこいの空間。祖母が経営していたドライブインを改装。
20代の頃はどんな音楽を聴いていたんですか?
糸矢さん
大学を中退して、結婚を理由に東京に移住しました。で、仕事をしながらクラブ遊びも続けてたんですけど、23〜24歳のときにハーレムで仲良くなった外国人が「西麻布にイエロー(2008年に閉店)という面白いクラブがあるから行ってみなよ」と教えてくれて。そこでDJ EMMAが主催する「EMMA HOUSE」というパーティーに参加して、一気にハウスミュージックの虜になりました。DJをやり始めたのもその頃からです。
レコードショップを始めたのはいつ頃ですか?
糸矢さん
2013年です。当時、おなじくハウスミュージックにハマっていた弟と一緒に、東高円寺にある商店街の一角で小さなレコード屋をはじめました。高円寺にはほかにもレコード屋がたくさんあったけど、みんなして温かく受け入れてくれて。撤退する2016年まで本当に良くしてもらいました。
ダンスミュージックを中心に2,000〜3,000枚のレコードが並んでいる。
なぜ、地元に戻ろうと思ったんですか?
糸矢さん
じつは東日本大震災が起きた2011年頃から、いつかは地元に戻ろうと思っていました。お店の方もお客さんは来てくれるけど、スタッフが多くて人件費はかかるし、家賃もそれなりにする。そうするうちに「地元で喫茶店をやりながら通販でレコードを売る」という、のんびりとした暮らしにシフトするのも悪くないかなと思って。弟と話し合って、店を畳むことにしました。
併設するカフェ「いかなてて」では、糸矢さんお手製のカレーを食べることができる。写真は人気のポークヴィンダルー 900円。
奥能登の観光スポット禄剛埼灯台がすぐ近くに。レコードに興味のないパートナーを誘い出す口実にぜひ。
現在も『LIBRARY RECORDS』は弟さんとの共同経営と聞きました。レコードはどうやってセレクトしているんですか?
糸矢さん
新譜に関してはレーベルから送られてくる情報をもとに、それぞれが気になったものを仕入れている感じです。中古盤は高円寺時代に買い取った鬼のような数のレコードが2階の倉庫に眠っているので、そこから季節や気分によって蔵出ししてます。
最後に、アナログ盤の魅力とはなんでしょうか?
糸矢さん
ジャケットを含めてアナログ盤にはモノとしての価値があると思います。とくに僕らの世代には思わず手に取りたくなる、飾りたくなるという感覚は大切なんですよね。あとは音質かな。2016年にカセット専門のレーベルを立ち上げたんですけど、モノラルのスピーカーでいかに気持ちよく聞こえるかを考えてマスタリングしています。長く聴いても疲れない音楽というのかな、これからの時代はそういった音源の需要も増えていく気がしています。
カセットレーベル「Mastered Hissnoise」も展開。全国各地で活動するDJのMixテープなどをリリースしている。
ずっと聴いていても疲れない。そんな音楽のカタチを提案する糸矢さんに、最近よく聴いてる音楽を聞いてみました。
糸矢さんが選ぶ「最近よく聴いてる」音楽3選
COASTLINES/Half Moon Shadowほか
DJの池田正典と「cro-magnon」のキーボーディスト・金子巧によって結成されたチルアウトユニット「COASTLINES」。糸矢さんがセレクトしたのは心地よいチルな世界観が広がるセカンドシングル「Half Moon Shadow」。「ジャケットから想像できるように、曲全体に清涼感があって聴き疲れしないんです」と糸矢さん。ダウンテンポな4つ打ちと官能的なピアノサウンドが気持ちよい。
S&W/A WEEKEND FAR OUT
ドイツベルリンのアンダーグラウンドから彗星のごとく現れたユニット「S&W」。そのふたりが手がけた、清涼感のあるバレアリックサウンドが堪能できる一枚。深みのあるシンセサイザーのフレーズと、ディスコやディープハウスを思わせるリズムを組み合わせ丁寧に仕上げられている。
QUIZI A RHYME/ROLLING STONE
岩手・盛岡を代表するヒップホップグループ「MAD BRIDGE」のメンバーとしてキャリアを重ねた後、単身上京し活動する「QUIZI A RHYME」の最新7インチ。ハーティーなリリックとソウルフルなフロウに定評のあるラッパーの魂の叫びが収録されている。糸矢さん曰く「高円寺時代によくお店に来てくれました。人間味のあるリリックはいつ聴いてもグッと来ますね」。
以上、糸矢さんが選ぶ「最近よく聴く」音楽でした!
LIBRARY RECORDS
ライブラリーレコーズ
石川県珠洲市狼煙町へ70-1
TEL.0768-86-2708
営業時間/11:00~17:00
定休日/水曜日
駐車場/あり
※こちらの情報は取材時点のものです。
(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)
糸矢さんの音楽遍歴を教えてください!
糸矢さん
高校時代はハードロックやメタルが好きで「BURRN!(音楽雑誌)」を愛読してました。世代的にはガンズとかメガデスあたりですね。大学時代はヒップホップ。山梨の大学に進学したんですけど、東京まで車で1時間ちょっとで行けちゃうんで。渋谷の「ハーレム(ヒップホップの聖地と呼ばれる老舗クラブ)」とかでよく遊んでました。
山梨のクラブには行かなかったんですか?
糸矢さん
もちろん行きましたよ!ただ、山梨はレイブの聖地でもある富士山の麓ということもあって、当時はヒップホップよりトランスミュージックの方が浸透していた気がします。僕もB-BOYの格好をしながらよくトランスのパーティーに参加しました。どちらにしても、家でじっくり音源を聴くよりは、現場で音楽やその場の雰囲気を楽しむ時間の方が多かったです。