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酒は古酒、女は年増。時を重ねる美しき熟成古酒「天平」を訪ねて

 

3年、5年、7年…

ウィスキーやワイン、泡盛のように、日本酒もまた蔵の中でじっくり年月をかけて熟成させることで、新酒とは違ったまろやかな酒になるという。

 

七尾市にただ一軒残る蔵元「布施酒造店」には、それはそれはこっくりと飴色をしたたいそう美味しい古酒があると聞いて、年越し迫る12 月、酒蔵へとおじゃましました。

 

今では見かけることの少ない、煙突がある蔵。

 

なぜ煙突があるのかというと、酒造りの過程で酒米を蒸す工程に使われているから。現在はボイラーを使って蒸している酒蔵が多いそうですが、ここでは昔ながらの造り方が続けられています。

酒蔵のカウンターで古酒と対峙。

明治9年創業の「布施酒造店」。

140年以上にわたって連綿と日本酒造りは続けられ、現当主で5代目。2月になると、女性杜氏が手がける季節限定のあらばしり、にごり酒が登場します。新酒はこの2種類のみで、そのほか全て満3年以上酒蔵で熟成させた古酒を蔵出しされています。

 

酒銘は「天平」。その昔、石動山にあった「天平寺」に由来している。

 

暖簾をくぐるとそこは、歴史ある酒蔵。酒蔵自体も築150年以上経っているそうです。

 

達筆な暖簾文字は、4代目が書いたもの。

 

酒蔵の作業場は奥へ奥へと長く、入り口入ってすぐの場所には、小売スペースが。

 

まるで映画のセットのような空気感をまとった小売所。この空間だけで一見の価値あり。

 

古酒は3年、5年、7年がメインとなっていて、10年ものもあるにはあるけれど数が希少になっているそう。小売所の渋すぎるカウンターで試飲ができるというので、飲み比べをさせてもらうことにしました。

 

古酒「天平」。右から「三年古酒1,300円」「五年古酒1,500円」「七年古酒2,000円」。いずれも500ml。

良い酒とは、水の如し。

どうしてもラベルのイラストに目がいってしまう。

聞けば、当主の兄で日本画家の布施謹爾氏が描いたものなのだとか。ラベルの力強さは「天平」がどこにもない唯一の個を持った酒であることを匂わせてきます。

 

「若い人はフレッシュな新酒が好みかもしれませんが、酒は古酒、女は年増ということわざがあるように、悪酔いしない。そりゃ一升も飲めば悪酔いもしますけれども酒は3年以上置くと、悪酔いしないようになるんです」とは5代目の言葉。

アルコール度数が19度あるにも関わらず悪酔いしないなんて。話を聞けば聞くほど、不思議な酒に思えてきます。

 

トクトクッとお猪口に注いでもらうと、熟した果実のような甘めの熟成香がただよい、これが古酒かと感じさせます。

 

右から3年、5年、7年古酒。熟成度とともに色味もまた濃くなる。七年古酒には金箔が入っていた。

 

独特の琥珀色もまた、年数による変化の証。

3年古酒は甘味と旨味に若さからくる辛味が立ち、7年古酒になるとより香りは芳醇に辛味の角がとれてまろやかさが際立つ。5年古酒は2つの特徴を合わせ持ち、辛味とまろやかさのバランスが良い。

 

「こればかりは飲む人の好みで、3年が好きという方もいれば、7年を飲んだら他は飲めないという方もいらっしゃいます。一番は氷を入れロックで飲むと美味しいですが、炭酸やジンジャエール、冬はお湯割にしても。好きなように楽しんでください」

 

上善如水。

一番良い酒は、水のようにどれだけでも飲める。良い酒になるよう続けてきたという5代目当主。80歳を超えた今も酒造りに邁進されています。

 

蔵の中には醸造用の大きな樽や搾りの舟があり、親族総出で仕込みが行われる。仕込みからラベル貼りまで全てが手作業。

ワンカップ酒から始められる「天平」入門。

素朴な疑問が湧いたので「3年古酒を買って寝かせておくと5年、7年古酒になりますか?」と尋ねると「瓶詰めのままだと変わらないけど、徳利に入れておくといい味になるよ」とのこと。大きめの徳利と「天平」を買って、濃厚な味にして楽しむという人も多いそう。

自宅で寝かせ変化を味わっていけるなんて、なんというか乙な愉しみ方。値段も想像していたよりずっとお手頃だから、やってみたい。

 

料理は治部煮やガンドぶりの刺身など地物料理と相性が良いとのこと。

飲んでみたいという方は、酒蔵の小売所のほか七尾市内の「能登食彩市場」や穴水町「七海屋」、金沢市「百番街金沢地酒蔵」東京銀座のアンテナショップ「いしかわ百万石物語 江戸本店」でも取り扱いがあります。

初めての方は、三年古酒のワンカップ酒「鬼ころし七尾城(180ml・230円)」が試しやすく人気なのだとか。

 

七尾市で脈々と続けられてきた酒造り。

月日が折り重なって生まれる神秘の味に出会うことができました。

 

大きなタンクが並ぶ蔵の中心部。ふんわりと麹の香りに包まれていた。

 

合資会社 布施酒造店

ゴウシガイシャ フセシュゾウテン

石川県七尾市三島町52-2
TEL. 0767-53-0027
営業時間/9:00〜17:00

定休日/年末年始
駐車場/50台

来店、試飲を希望される方は事前予約がおすすめです。
※こちらの情報は取材時のものです。

 

(取材・文/森内幸子、撮影/吉田章仁)

 

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