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元格闘家のタコ漁師が想像以上に理論派だった件。

能登島の最東端、富山湾に面する鰀目(えのめ)漁港

 

島内屈指の活気を誇るこの港に、データを駆使したタコ漁で成功を収めるひとりの漁師がいます。

 

 

それがこちらの、平山泰之さん。

 

データを駆使して、なんて言うものだから「メガネくいっ」の理系男子を想像した方も多いかと思いますが、焼けた肌とマッチョな体格はまさに海の男。ところがこう見えて平山さんは超理論派。「経験や勘に頼らない、データを重視した漁の”見える化”」によって、なんと年間10トンものタコの水揚げ量を誇る、島一番のクレバーな漁師さんなのです。

 

 

ちなみに平山さんは、学生時代から極真空手に励み、卒業後は大阪のジムに所属していたというゴリゴリの元格闘家。なんとなんと、K-1の試合にも出場したことがあるそうです。その後はホームレスを経験するなど紆余曲折ありながら、十数年前に地元・能登島にUターン。祖父が乗っていた漁船「竹生丸」を受け継ぎました。

 

そんなわけで今回は、能登島のタコ漁師・平山泰之さんの「漁」に密着。そのなかで、生業に対する独自の哲学や、将来に対する思いなどを聞いてみました。

早朝4時に、鰀目漁港を出発!

 

平山さんの一日は、深夜2〜3時頃から始まります。事務作業などを済ませて、この日漁に出たのは4時すぎ。相方の當摩(とうま)さんがデザインしたTシャツに身を包み、いざ富山湾の沖合へ。GPSや魚群探知機の情報をモニタリングしながら漁場へと向かいます。

 

 

漁場に到着すると、さっそく仕掛けたカゴの回収作業を開始。捕れたてのタコが傷つかないよう、一杯ずつネットに詰めたあと、つぎつぎとイケスに移していきます。この丁寧な作業が、市場関係者や料理人から信頼される理由のひとつ。まだ小さい個体は海に戻すといった資源保護も徹底しています。

 

 

帰港するとすぐに船上のイケスから港内のイケスへとタコを移し替え、生きたままの状態で全国に出荷していきます。なんでも、地元の市場だけでなく全国に販路を持つことは、単価が下落したときなどのリスクヘッジになるのだとか。漁業をしっかりとビジネスとして捉えているわけです。

 

 

タコといえば瀬戸内海、とくに明石産が有名ですが、七尾のタコも負けてはいません。

 

そもそも富山湾に面する能登半島の東側、能登島が位置する一帯は日本でも有数の漁場。タコに限らずたくさんの種類の魚が獲れるのですが、その中でも能登島の沿岸にはタコの住処となる岩礁が多く、餌となる貝やカニなどの甲殻類も豊富に生息。さらに対馬暖流と冷たい日本海の海水がぶつかることで、身の締まりが良いタコが獲れるなんて話もあるそうです。

 

ちなみに平山さんのタコは近江町にある「鮨えのめ」でも食べられるそうですよ!

 

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刺網漁は実力主義。だから面白い。

 

朝7時を過ぎて水揚げ作業はひと段落。次の漁までしばしの休憩となります。

大漁でしたね!いつもこれくらい獲れるんですか?

平山さん

そうですね。夏場はタコ漁の最盛期なので。

これが全国の飲食店や食卓に並ぶと思うと、ロマンを感じちゃうな〜。

平山さん

はははっ。

そういえば能登の漁といえば大敷網(定置網)が主流ですけど、平山さんは刺網漁がメインですよね。理由はあるんですか?

平山さん

定置網漁はたくさんの人手や資金が必要になるので、網元の家に生まれでもしないと難しいんですよ。

そうなんですか。

平山さん

刺網漁をしているのは、じいちゃんの漁を受け継いだ感じですね。刺網は漁師の実力差が出るから、おもしろいんですよ。

実力差と言いますと?

平山さん

魚の通り道を狙って網を仕掛ける漁法なので、海の中の複雑な形状を頭の中にインプットした上で、いつどこに魚がいるかを把握していないといけないんです。

へぇ〜。

平山さん

これだけ広く見える海でも、じつは魚がいる場所は限られていて。そのポイントを誰よりも先に見つけるのが漁を成功させる秘訣なんです。

どうやってポイントを見つけるんですか?

平山さん

僕も最初の頃は他の漁師と同じように、勘を頼りに漁場を回っていたんですよ。でも、2年目を過ぎたあたりから「勘ほど曖昧なものはないな」と思うようになって。

ふむふむ。

平山さん

このままじゃ生活が安定しないし、どうしようかなと思ってたときに、あるテレビ番組で島田紳助さんが「芸能界で生き残るために、いろんなお笑い芸人のデータをとって研究した」みたいな話をしていて。それから毎日データをつけるようになったんです。

へぇ〜、深イイ話!

平山さん

もうかれこれ14〜15年はデータを収集しているので、狙いに行ってタコがとれないということはほとんどないですね。

すごいですね〜。ちなみにどんなデータを取っているんですか?

平山さん

水深、水温、地形、とれたタコの数とサイズ、種類。その中でも一番大事なのが水温で、データをもとにタコが最も過ごしやすい水温となっている漁場を狙いに行きます。

たしかにそう考えるとデータって大事ですね。

平山さん

数字は嘘をつかないですからね。

論より数字、勘より統計ってやつですね。

平山さん

「今年はタコが少ない」なんて話も聞いたりするけど、じつはそんなことはなくて。気候の変化によって、今まではとれた場所でとれないだけなんですよ。もちろんそれはデータにも表れています。

大切なのは生きたデータを取ること。

平山さんはおじいさん以外に尊敬している漁師さんとかいるんですか?

平山さん

漁師じゃなくてもいいですか?

はい。

平山さん

コンサル会社を経営している中小企業診断士の方なんですけど、漁をビジネスとして捉えられるようになったのはその人のおかげですね。

どんなアドバイスを受けたんですか?

平山さん

その方と出会ったのが、漁場のデータを取り始めたちょっと後で、まだ自分自身そのデータをどうやって活用すればいいのか分かってなかったんですね。

ふむふむ。

平山さん

そしたら「自己分析することが大事。まずは自分の現状を知るためのデータの取り方で、経営者の視点で数字を残しなさい」って言われたんです。

と言いますと?

平山さん

ただ数字を集めるだけでなく、漁獲量や収入に直結する「生きたデータ」を取れということですね。

なるほど〜。

平山さん

あとは経営面。僕のじいちゃんもそうだけど、昔の漁師は通帳を出入りする金額を知るだけで、自分の船で年間何キロのタコを水揚げしたとか、タコ1匹あたりの実際の単価を把握してない人が多いんですね。

たしかに漁師さんといえば、いい意味でも悪い意味でもそのへんアバウトなイメージがあります。

平山さん

たとえばタコ1匹が1,000円で売れたとしても、実際には手数料とか氷代とか、船の燃料代も含まれてますから。タコを1匹とったら、実質単価がいくらになるのか。そういったことを現実的に考えるようになったのもその方のおかげですね。

 

インタビューを終えると、平山さんは足早に次の現場へと向かいました。

 

 

向かった先は、日本でも希少な野生のミナミハンドウイルカを見ることができるイルカウォッチング。平山さんは漁の合間に船を出し、観光客を乗せた七尾湾クルージングもしているのです。

 

早朝の漁から今まで働きっぱなし。しかもこの後は地元の有志と新事業の打ち合わせがあるそうで…。いつ寝てるのかこっちが心配になるレベルです。

 

※今年のイルカウォッチングの予約は10月半ばまで。来年はゴールデンウィーク前の4月後半から開始予定とのこと。詳しくはドルフィンスマイルのホームページをご確認ください。


 

どうしてそんなに仕事が好きなんですか?

平山さん

仕事が好きというよりは、地元や仲間、家族のためにやれることはなんでもしたいって感じですね。

農業や飲食店の経営もしてますよね?

平山さん

そうですね。常々「感謝」を理念に仕事をしていて。漁師や農業の直販もイルカウォッチングの船長も、お客さんの感謝がリアルに伝わってくるので、すごくやりがいがあるんです。

最後にそんな平山さんの夢を教えてください!

平山さん

最近は地元の人たちと集まって、地域活性化のために何ができるかを考えています。新しい事業で、地域の人がより幸せに楽しくなる街にしていくことが、これからの夢です。

そうなんですね!

平山さん

それと、個人的には人様に影響を与えられるような存在になること。自分が生まれ育った町で、じいちゃんが魂を捧げてきた漁師の仕事を伝えながら、そんな人間へと成長していきたいと思っています。

 

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(取材・文/BONNO編集部、撮影/林 賢一郎)

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