【金澤12年】気鋭のバーテンダーが教えるウイスキーの極意
かっこいい男はウイスキーが似合う。これって万国共通の男の美学だと思う。筆者もその昔、映画ゴッドファーザーで眉間にしわを寄せながらブランデーを飲む、マーロン・ブランドの渋い演技に憧れたりもした。今でもちょっと雰囲気のあるバーに行くと、あのテーマ曲(愛のテーマ)が頭の中に流れるくらい。ウイスキーは男心を刺激してくれる。
ウイスキーは男のロマン。
美味しさの秘訣は仕込み水にあり。
「ウイスキーが、お好きでしょ〜」でおなじみの角ハイボールをはじめ、昨今のハイボールブームの影響でジャパニーズウイスキーの需要は軒並み上昇中。新たな蒸留所も続々と誕生し、地酒ならぬ地ウイスキーが各地で生み出されている。〈金澤12年〉もそのひとつ。金沢らしい煌びやかなパッケージデザインが目を引く、石川の地ウイスキーだ。
金澤12年10,000円(税抜)。限定600本と希少なため品切れ御免。
ウイスキーの主な原料は穀物と水と酵母のみ。シンプルなだけに仕込み水の質もかなり重要で、その善し悪しはウイスキーの出来栄えを左右するともいわれている。たとえばサントリーの〈山崎〉なんかは、利休が茶室を開くレベルで水がキレイな場所で蒸留されているし、〈白州〉の蒸留所の近くには名水百選にも選ばれた尾白川が流れている。
そうなると〈金澤12年〉には、どんな仕込み水が使われているのか、気になるところ。早速、このウイスキーが飲めるという小松駅前のショットバー「BOSS」に向かった。
小松駅から徒歩5分。場所は雑居ビルの2階。
木のぬくもりを感じる店内。朝5時まで営業している。
「仕込み水は霊峰白山から流れる手取川の伏流水。手取川の上流には昔から様々な野生菊が群生していて、そのことから白山菊水とも呼ばれています。とても良質な水で、日本酒の仕込み水にも使われているそうです」
そう言いながらテイスティングラスを取り出し、おもむろに〈金澤12年〉を注ぎ始めるマスターの白江誠一郎さん。琥珀色に輝くウイスキーは、果たしてどんな味がするんだろう。
「この金澤12年はシェリーカスク(※1)がキーモルト(※2)となっています。シェリーカスクのウイスキー原酒は、甘いバニラやパッションフルーツのようなニュアンスの芳醇な甘い香りが特徴。クセが少ないのでウイスキー初心者にもおすすめです。口当たりも優しく、味わいや香りなどすべてが柔らかい印象。後味も引っ張ることなく、ほど良く余韻を残してスッと消えていきます」
※1 シェリー酒を熟成させるために使った樽のこと
※2 いくつかの原酒をブレンドするさいに主軸となるモルトウイスキーのこと
まろやかで飲みやすい、日本人好みの味。
マスターの白江誠一郎さん。
美しい琥珀色は樽熟成の賜物。
ひとつ気になったのが12年という言葉の意味。今年の春には〈金澤18年〉も発売されるそうで。そのあたりも聞いてみた。
「12年というのは樽で熟成させた年数のこと。基本的にウイスキーはいくつかの熟成年数の原酒をブレンドして造るのですが、12年であれば12年以上熟成させた原酒だけを使っていることになります。熟成させることで、香りは深く複雑に、味わいはまろやかに。年数が長いほど蒸留所の特徴も出やすくなります。その年数を飲むと言うか、何年も眠っていたロマンを感じることができるのも、ウイスキーの魅力だと思います」
マスター、いつもの。って言ってみたい。
「あらゆる酒の中ではウイスキーのオン・ザ・ロックが視覚的にいちばん美しい」というのは、ウイスキー好きで知られる村上春樹の小説〈世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド〉に出てくる一節。たしかにウイスキーといえばロックのイメージだけど、ほかにもストレート、水割り、ハイボール。なかにはミストやトワイスアップなんて耳慣れない飲み方もあるけど、一体どれがいいんだろう。
「香りと味を楽しむならストレートが一番だけど、強いお酒が苦手な人もいますから。まずは色んなものを試して、自分の好みを見つけるのが良いと思います。とはいえウイスキーの種類によって適した飲み方というのはあって。香りの強いウイスキーはハイボールでも美味しく飲めるし、バーボンなどの甘めのお酒はロックがおすすめだったり。その酒に合った飲み方をバーテンに聞くのもありだと思います」
ちなみにウイスキーの飲み方でよく聞くシングルとダブル。これはオンザロックで飲むときにグラスに注ぐウイスキーの量を表すもので、シングルなら約30ml、ダブルなら倍の60mlが一般的だそう。度数の高い酒が苦手な人は、シングルでちょうど良いかもしれない。
芳醇な香りが特徴の〈金澤12年〉はハイボールでも旨い。
日本のウイスキーはまろやかで優しい。
白江さんが個人的に好きなウイスキーも聞いてみた。
「日本のウイスキーなら山崎12年か金澤12年。どっちも良さがあって、甲乙付け難いですね。海外ならバルベニーかなぁ。じつは日本と海外のウイスキーには決定的な違いがあって。軟水で仕込まれる日本のウイスキーは軽くまろやかでバランスがとれたものが多いんですけど、硬水で仕込まれる海外のウイスキーは個性的でクセの強いものが多いんです。地域によって味も香りも全く違うので、その土地や風土の味を感じたいという人は、色んな国や地域のウイスキーを試してみてもいいかもしれませんね」
白江さん自身もハイボールで飲むことが多いそう。
そんな白江さんが経営するショットバー『BOSS』では、〈金澤12年〉以外にも50〜60種類のウイスキーを用意。カクテルやフードの種類も豊富で、ここでがっつり食事をしてから、他の店を何軒かはしごして、最終的に飲みに戻ってくる人も多いんだとか。
角ハイボール500円、カクテル600〜700円という料金設定も良心的。「僕も若いときはお金がなくて、もうちょっと飲みたいけど我慢して帰るということがよくありました。でも、経営してみて分かったんですけど〈金がないから帰るわ〉と言われるのが一番辛いんですよね。できるだけ長くいて欲しいから、この値段でやらせてもらってます」と白江さん。チャージも500円。この好意に甘んじて、ウイスキーはじめませんか?
SHOTBAR BOSS
ショットバー ボス
石川県小松市大和町1-1 2F
TEL.0761-58-1228
営業時間/20:00~翌5:00
定休日/日曜日
席数/カウンター10席、テーブル10席
駐車場/近隣にコインパーキングあり
※こちらの情報は取材時のものです。
(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)