週末限定!現役猟師がふるまうジビエカレー|煩悩を断ぜずして咖喱を得るなり #12
冬の味覚の新定番として、すっかりお馴染みになったジビエ。ここ石川県でも11月15日から2月15日までの狩猟期間中、さまざまなレストランでジビエ料理を楽しむことができます。
ジビエとは、フランス語で食材となる野生鳥獣肉を意味する言葉。ヨーロッパでは貴族の伝統料理として発展してきた食文化ですが、じつは日本でもジビエを食べる習慣は古くからあります。鴨肉を甘辛く煮た金沢の郷土料理・治部煮は、ジビエが名前の由来という説もあるそうですよ。
というわけで今回の「ボクらのカレー」では、ジビエを使ったカレーに注目。猟師である店主が仕留めた獣肉を料理するカフェ『sosori』にお邪魔して、美味しいと評判のジビエカレーを堪能してきました。
sosori
生きるための狩猟と山暮らし。
金沢市内から約1時間、白山セイモアスキー場に向かって車を走らせていると現れる一軒の山小屋。
えんとつから煙がモクモク、犬の鳴き声がワンワン。どうやらお店はオープンしているようで、まずはひと安心。じつは筆者、週末限定であることを知らずに「現在、狩猟中」の張り紙が貼られたドアの前で、立ち尽くした経験があるのです。
一年越しで叶ったカフェへの訪問。さっそく中に入ってみましょう。
男の隠れ家のような木の温もりに包まれた空間。左手には薪ストーブも。
狩猟によって得た革を使ったレザークラフトも販売する。
ジビエカフェ『sosori』を経営するのは長田泉さん。2012年に金沢市から白山市河内町に移住。平日は猟師として熊、鹿、猪などを仕留め、週末になるとカフェで自慢のジビエ料理を振る舞っています。
男なら誰もが憧れる山の暮らしは、YouTubeチャンネル「山小屋Wildlife」でも配信中。これから狩猟や料理にまつわる動画を、定期的に公開していくそうです。
もともとは革作家として活動していた長田さんが猟師になったのは「生きるため」。
作家としての仕事よりも、工房で働く従業員やお金の管理が主になっていることに気づいたある日、里山への移住を決意。生活費は仕事として稼ぎつつ食糧は自らの手で調達する、半自給自足の生活を目指すようになったと言います。
店主の長田泉さん。白山麓から能登まで幅広いフィールドで狩猟を行なっている。
「動物の命をいただくことで、自分の身体が作られていく。猟師になって食に対する感謝の気持ちが強くなりました」と長田さん。
狩猟によって仕留めた動物をどうしたら美味しく食べられるのか。カフェで提供される料理には、長田さん自身が心豊かに暮らすための試行錯誤が色濃く反映されています。
その中でもとくに人気なのが、ジビエの特性を生かしたスパイスカレー。今回は熊肉をじっくり煮込んだ欧風カレーを注文してみました。
滋味あふれるジビエカレーを実食!
熊肉の欧風カレー 2,800円(季節や狩猟の成果によって内容に変更あり)
地元の農家から仕入れた無農薬野菜とジビエのサラダに始まり、猪の骨で出汁をとったボーンブロス、塩こしょうでシンプルに味付けした熊肉のローストと、コース料理のように次々と運ばれてくる皿。
畳みかけるようなジビエのオンパレードに、思わずテンションが上がります。
地元の無農薬野菜を使った前菜。薪で炙った猪肉のハムは香り豊か。鹿のレバームースも塩味が効いてサラダとよく合う。
「塩こしょうだけでこんなにも旨味が!?」と、筆者が衝撃を受けた熊肉のロースト。そのまま食べても、カレーに乗せても。
ジビエというと「臭い、硬い」という印象がありますが、それは処理が雑だったひと昔前の話。長田さんは仕留めた動物をカフェに隣接する獣肉解体処理施設で速やかに解体。血抜きなど適切な処理をすることで、臭みのない柔らかな肉となります。
そうして得られたジビエはカレーとの相性もバツグン。獣肉の旨味とスパイスの香りの相乗効果で、美味しさが何層にも重なったような、そんな奥深さのあるカレーに仕上げられています。
熊の骨でとった出汁と数種類のスパイスで構成されたカレー。じっくりと煮込まれた熊肉が口の中で溶けていく。季節の野菜もたっぷり。
こちらは追加注文した、猪肉100%の自家製フランクフルト。力強い食感とあふれ出る肉汁の旨味がクセになる。
白山麓の湧き水で淹れたコーヒーをすすりながら、スパイスの余韻に浸っていると「グリーンカレーとバターチキンもあるんですよ」と長田さんがひと声。
まだまだジビエの季節はこれから。この冬の間に全カレー制覇を目指したいと思います!
sosori
ソソリ
石川県白山市河内町下折イ50−3
営業時間/11:00〜
定休日/月曜〜金曜日(猟期は土日休みの場合あり)
席数/テーブル8席
駐車場/8台
※こちらの情報は取材時点のものです。
(取材・文/ヨシヲカダイスケ、撮影/林 賢一郎)