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爆裂地方都市⑱|告白!トラウマ料理人の過去(前編)

特に誰も知りたくない情報をカミングアウトすると、恥ずかしながら僕は料理を作ることを生業としていながら火が怖くてフランベができません。

※フランベ…調理の最後にフライパンにお酒を落として、炎を上げて香り付けをする調理法

 

どうしてもあの炎が換気扇に引火して火事に…という事態を妄想して手が震えてしまうので、コンロの火を一旦消してからお酒をかけて弱火でアルコールを飛ばしています。キャンプ場など青天井で火災の心配のない場所でなら炎が上がっても平気なんですが。

 

火が怖くなったのは中学3年生のときに通ってた塾が原因です。塾の先生は教員免許を持っている英語が堪能な女性で、先生の旦那さんと小さなお子さん2人と先生のお母さん、あと室内で飼っている人懐っこい大型犬と暮らす古い一軒家の2階を塾にしていました。

 

ある日、塾で僕を含む生徒8名で勉強をしていると、先生が1階から2階に向かって「降りてきて!!!!」「降りてきて!!!!」と叫ぶ声が。てっきりいつものように大型犬が2階に上がってきて塾部屋に入ろうとしてるのを制してるんだなと全員が思い込んで、無視していたら先生の「降りてきて!!!」の声が泣き叫ぶような異常な絶叫に・・・異変を感じて恐る恐る部屋の扉を開けると熱風と黒煙が機関車の如く一気になだれ込んできて家のブレーカーを全部落としたか停電になったかというほど一瞬で部屋が煙で真っ暗に!!!火事だ!!

 

煙で目も潰れるほどの痛さ、呼吸をすれば喉が千切れるほどの苦しさ、暗闇でみんなの阿鼻叫喚が聞こえる。まさに黒で塗りつぶした地獄絵図。本当に死んじゃう!!2019年に36名の犠牲者(被害者)が亡くなった「京都アニメーション放火殺人事件」の生存者の証言でも「爆発音から30秒で伸ばした手が見えなくなるほど目の前は真っ暗になった」と言ってるけど、まさにそれです。2021年の北新地ビル放火事件もそうだけど、途中までの苦しみを共感できます。

 

既に一階はもう完全に燃えていて玄関からの避難は不可能なことは明白、2階の間取りは階段を上がったら塾として使っているこの部屋のみで、ベランダもなく唯一の逃げ場である窓も分厚い昭和の柄物すりガラスで、以前から経年劣化で錆びていて開けられないことが判明している。もう僕ら8人に残されている物語は、逃げ場のない状態でもがき苦しんで一酸化炭素中毒で死んで焼かれる最悪のエンディング…

 

と!そのとき!塾の8名のうち学年でも腕相撲ナンバーワンだったA君が、大きな勉強机を持ち上げて窓に向かって文字化できない絶叫と共にぶん投げたら窓が割れて空気が!!外が!!逃げ場が!!生存への希望が!!!!僕は​​「火事のときに自分にはあると思えない大きな力を出して重い物を持ち出したりすることから、切迫した状況に置かれると普段は想像できないような力を無意識に出すことのたとえ」の慣用句である『火事場の馬鹿力』の本物を見ました。命の恩人。関係ないけどA君のお母さんは森 久美子にそっくりでした。

 

(火事のシーンに戻って)とりあえず目が開けられて、呼吸ができるようになった僕は、パニックと恐怖と苦しさで思考停止になっていた脳が生還の可能性ができて急に覚醒したのか「絶対に死なない!生きるんだ!」というアドレナリンが大爆発。体内の血が煮立って吹き出るほどドクドクしてテンションもブチ上がって、笑いが込み上げてきました。いや、バグってただけかも。30年前に起こった非日常での出来事なので、記憶違いや記憶の書き換えもあるかもだけど、あの感じは忘れられません。

 

とにかくもう2階にも火の手が迫ってきたのでいち早く割れた窓から屋根に飛び移って、1階の庭にみんなで順番に飛び降りなきゃ死んでしまうということで、泣いて怖がる女子Bさんをなだめてというか「着地しても庭の地面は土だから柔らかいし大丈夫だよ!!」と説得して飛んでもらいました。修羅場すぎて僕が説得したか他の誰かか忘れたけど、そんなやり取りがあったはず。

 

ちなみにBさんは「学年では無口で、地味なタイプで、イケてる女子グループにも属してないけど、実はすごく可愛い」ということでヤンキーでも部活のスター選手でもなく、女子にも告白する勇気ない系の窓際男子のマドンナとして、一部では憧れられてました。結局Bさんは飛び降りたときにねんざしたそうですが、ねんざで済んで良かった。イケてない男子たちのマドンナが火事に逃げ遅れて焼死したニュースなんて辛すぎる。

 

でも日常生活だったら「2階から飛び降りる」って無理ですよね。先日も快晴の真夏日に布団やシーツやバスタオルを屋根に干していたら足がすくみましたもん。まして、割れた窓ガラス越しに屋根に飛び移るなんて考えられない!

 

(火事場のシーンに再び戻って)C君は完全に錯乱状態で「誰か!!ハシゴを持ってきてください!!誰か!!ハシゴを持ってきてください!!」と2階の屋根の上から誰もいない夜空に向かって絶叫していて「今からハシゴ持ってきても間に合わんだろ!!」ということで飛び降りてもらいました。ちなみにC君とは小学1年から中3まで仲良かったけど、高校が違ったのでそれから1度も会ったことがなく、人づてに聞くところによると、現在シェフになっているそうですが彼もまた火が怖くなって、フランベできなかったりして…。

 

プライベートでも常に学ラン姿でポーカーフェイスだったD君は、この惨事でもポーカーフェイスでひょいと庭に飛び降りてました。しかし2階に取り残されていたらポーカーフェイスどころじゃなかったでしょう。

 

E君はとんねるずのファンで「みなさんのおかげです」を第一回から毎回録画していたけど、ちょうど火事の日が「みなさんのおかげです」の2時間スペシャルの日でした。大好きだった番組の特番が見れずに死んだら悔しくて成仏できなかったかもしれないな!

 

F君はプライベートで交流はなかったけど、火事から約15年後に「新婚さんいらっしゃい」に出演していてテレビ越しに再会。当時シュッとしてたのに15年後はすごく太ってました。生きて新婚になれて良かったな!

 

G君にはサッカーの上手な弟がいて、火事を知ったG君の弟が現場に駆けつけてきて「お兄ちゃんは!?お兄ちゃんは!?」と泣いていた姿も目に焼き付いてます。この弟は後にJ-リーグの人気選手となり海外でも活躍、日本代表にも選抜され旬の女優とも浮名を流していたけど、僕の中ではいまだに「お兄ちゃんは!?」の姿のままです。お兄ちゃんが生きてて良かったな!

 

とにもかくにも全員が庭に飛び降りて、笑ったり泣いたりポーカーフェイスだったり錯乱してたりと無事を喜びあいました。大袈裟に書けば、炎と黒煙の中から真っ黒になって出てくる8人の中学生(エアロスミスの「ミス・ア・シング」が流れる中で)…今ならスマホで撮られて動画がSNSで拡散されているでしょう。家の前で泣き崩れていた先生は、地面に這いつくばって僕らにしがみついて「ごめんなさい…!」と何度も謝ってきました。自分が預かっていた生徒を火の不始末で亡くしてしまったら、先生も親も通常の精神では生きていけない。みんな生きてて良かった。先生のご家族も愛犬も全員無事避難していました。原因は石油ストーブの上に吊り下げて干していた洗濯物が落ちて引火したようです。気をつけよう!

 

もう既に誰かが消防車を呼んでいたかもしれないけど、塾の数軒隣の同級生の家の玄関で「火事です!!119番してください!!」と叫んだ記憶はこれを書いて蘇りました。あと先生に「車に引火したらガソリンで爆発するし車庫から出しましょう!!」と言った記憶も。

 

(再び火事のシーンにカメラをパン)野次馬も集まってきて、その中にいたヤンキーの同級生Hが僕らに向かって「なんだ〜死んだんじゃなかったのかよ〜!」とゲラゲラ笑っていたら、消化活動をしていた近所のおっさんに「こんなときに冗談言って笑うな!」と思い切り頭を叩かれていました。Hは小学1年の頃から、女子だろうが男子だろうが平気で暴力をふるい万引きをするような悪魔だったけど、高3のときにカラオケボックスで吉川晃司を歌ってはしゃいでるときに足を骨折したという情報が入ってきて以来、音信不通です。

 

そこから僕らはどんな会話をしてどうやって解散したのか、塾が鎮火するまで見届けたのかすっかり忘れたけど、煙を吸って軽めの火傷もしたのに何故か病院にも搬送されず、お気に入りのバスケットシューズも燃えてしまったので、ひとりで裸足のまま夜道をペタペタ歩いて帰宅したら「みなさんのおかげですスペシャル」のエンディングでゲストのバブルガム・ブラザーズが当時の新曲「WON’T BE LONG」を歌っていたシーンを鮮明に覚えています。ついさっきまで死にかけてたのにもう日常…!

 

風呂から上がって寝ようとして、布団に入って目を閉じた瞬間に、壮絶な体験で緊急事態対応モードになっていた脳が限界になったみたいで、事の重大さにフラッシュバックが起きて身体がガタガタ震え出して咳も止まらなくなって眠れなくなりました。まさかこれがトラウマになるなんて…(続く)

 

【本日のトラウマ曲】

バブルガムブラザーズ「WON’T BE LONG」

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