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つながれ友達の輪!私のマスターピース⑥|映画監督・渡邉高章の場合

映画、音楽、本、漫画、はたまたお気に入りのグッズなど。それぞれの心をえぐった「自分的最高傑作」をピックアップして紹介していくリレー企画。今回は、石川県を舞台にしたショートフィルム『サヨナラ、いっさい』や『珠洲ノオト』を手がけた映画監督の渡邉高章さんにバトンタッチ。

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まずは自己紹介をさせていただきます。私の肩書は映画監督とありますが、ちょっと引け目を感じてしまいます。なぜなら、それだけで生活ができているわけではないからです。おそらく日本のインディーズ界隈で活動している殆どの監督さんや俳優さんも、引け目に感じるかは別として、そうなのだと思います。それでもパラレルキャリアで、日々を豊かにすることの努力をしている。社会への関わりを持ったうえで、自分を表現する場所を作る。それがどんどん肯定的な時代になっていけばよいなと思います。

 

そんな私ですが、映画監督では、ショートフィルムやミュージックビデオを制作しています。商業映画のように大きな予算があるわけではないので、自ずと自分で何でもやるようになります。私の場合、俳優以外なら何でもやります。経験上、監督と一緒に私ができる仕事は、脚本、制作、撮影、録音、編集……などでしょうか。ここでやっと「自分的最高傑作」の話になるわけですが、私は一緒に作品を作ってきた一眼レフカメラ「CANON EOS 60D」(以下、「60D」)をご紹介したいと思います。

CANON EOS 60D

 

知っている人が聞けば、もう結構古いカメラですし、中古なら数万円で手に入るランクの機種です。量販店を覗けば、殆どの機種が「60D」より高性能、高解像度のカメラです。それでも私は本機を肌身離さず持っています。上位機種も使ってみましたが、なんだかしっくり来ないのです。勿論作品によっては、私より断然出来の良いカメラマンと高性能のカメラに頼ります。それでも私がこのカメラを「最高傑作」とするのは、長年の使用で愛着があり、その手触りや重さ、操作性に慣れていることもあるでしょう。

 

2015年、本機でロードムービーを制作し、石川県を訪れました。約8分のショートフィルム『サヨナラ、いっさい』です。本作は、おかげさまで全国四十箇所以上の映画祭や学会などのイベントで上映され、映画祭では入選のみならず、最高賞や俳優賞を幾つもいただきました。石川県でも上映イベントをしていただいたので、とても良い思い出としてあります。現在こちらの作品は、オンラインのショートムービーコンテストで無料視聴が可能なので、是非ともご覧いただければ幸いです。

 

『サヨナラ、いっさい』のワンシーン。金沢のくわな湯にて。

 

「60D」は、通常の一眼レフの大きさなので少々かさばりますが、強引に鞄に押し込むことも可能です。すでに高価とは言い難い機種なので、そんなぞんざいな扱いができるのかもしれません(勿論愛情を持って)。そうして能登の珠洲市で開催されている「すず里山里海映画祭」に参加したのも良い思い出になりました。この時は訪れた能登の風景を映像におさめて、『珠洲ノオト』という小さな作品を制作しました。また、尺の短い作品だけではなく、俳優と音楽以外を全てこなして、中篇の映画も撮りました。あの世で彷徨う夫婦を描いた『土手と夫婦と幽霊』という作品で、これは日本芸術センター主催の映像グランプリでグランプリ、湖畔の映画祭で主演俳優賞(星能豊)をいただきました。結果、私の「最高傑作」は、費用対効果が抜群でもあるのです。

 

『珠洲ノオト』のワンシーン。見附島にて。

 

おそらく私が本機を「最高傑作」と呼ぶのは、幾つもの挑戦とともに一緒に作品を産み出し、なおかつ結果を伴ってきたからなのだと思います。当時の「60D」評価は、価格も手頃で、入門機として十分な機能を搭載したカメラであり、写真も映像もそつなくこなせるオールラウンダータイプ、でしょうか。当時私は、仲間のカンパもいただいて、秋葉原でダブルズームレンズキットを8万円くらいで購入したと記憶しています。口コミなどを参考にして、本機を手にしたと思います。今でこそレンズで画質が大きく変わると信じて疑いませんが、当時は映像作品を作れれば何でも良かったので、最小F値5.6で頑張って撮っていました。そして、数多あるカメラの中の「60D」が、唯一のカメラになったのです。「60D」が映してきたものは、私の好きな俳優さんであり、私の好きな風景であり、私の中のストーリーです。そんなヒストリーを持っているからこそ、私にとって信頼のおける「最高傑作」なのだと思います。

 

一つ言ってしまえば、多くの映像作品は、その内容や上映形態、クライアントの要望などによって、撮影するカメラも決まってくると思います。「60D」が最高傑作であること自体は、私のキャリアの小ささを物語っているのかもしれませんが、それはそれで私の人生です。これからも可愛がってやろうと思いますし、また、近い将来、「60D」の親戚になるような「最高傑作」のカメラを手にしたいとも思っています。

 

この文章を書いているPCテーブルの片隅には、「60D」が置いてあります。後ろで遊んでいる子どもたちの良い場面をいつでも撮れるようにです。日頃のプライベートな風景も「60D」で撮れば、何だかもう作品になる気がします。実はこのコロナ禍の自粛期間にも、子どもたちと一緒に遊びながら撮影をしました。それは小さな作品となり、子どもたちの成長とともに「今」を記憶しています。「今」は過去になり永遠になる、私の「最高傑作」はなかなかのロマンチストでもあります。

 

『土手と夫婦と幽霊』のワンシーン。映画の中にもカメラが出てきます。

 

前述した小さな作品たちは、10分未満の短い映像作品を集めたUNDER 10 stay home.で視聴が可能です。ショートフィルムやミュージックビデオを並べていますが、全て今回紹介した「60D」で撮影しています。「60D」でどんな映像が撮れるかがよくわかると思いますので、息抜きがてらにご覧いただけたら嬉しく思います。

 

図々しくも自分の作品も幾つも紹介してしまいましたが、これも願わくば、いつか誰かのマスターピースになるための布石と思ってお許しください。そして、次にバトンをつなぐのは、そんな私のマスターピース「60D」で撮影したショートフィルムで、ヒロインを演じてくれた俳優の徳田公華さんです。彼女の独特な世界観とともに、新たな「最高傑作」をお楽しみ下さい。

 

 

 

今回の寄稿者

渡邉高章(映画監督)
東京生まれ湘南育ち。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒。映画やドラマの演出部と制作部を経て、現在は自身の団体「ザンパノシアター」にて映像制作を行っている。

HP:zampanotheater「UNDER10 stay home.」
Facebook:@渡邉高章
Twitter:@zampanotheater

 

○つながれ友達の輪!私のマスターピース

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