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つながれ友達の輪!私のマスターピース⑨|演出家、舞台監督・本庄 亮の場合

映画、音楽、本、漫画、はたまたお気に入りのグッズなど。それぞれの心をえぐった「自分的最高傑作」をピックアップして紹介していくリレー企画。今回は、石川県出身、金沢を拠点に舞台演出家、スタッフとして活躍する本庄 亮さんにバトンタッチ。

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「マスターピース」「自分的最高傑作」んー、考えてみると意外と趣味や興味の幅が狭い事に気付く。思い浮かばない…バトンを繋いでくれた方の文章を読み「皆んな面白いこと書くな〜」と思いつついよいよ迷宮入りしそうになる…今回バトンを受け取りました「本庄 亮」です。亮と書いて「まこと」です。前回のコラムで弟も書いていましたが。弟よ、俺の書くネタを先に書いてくれてありがとう!

 

金沢を拠点に活動する劇団「アンゲルス」に所属し、舞台監督、演出として海外公演などほぼ全ての作品に関わってきました。15年間演劇ばっかりやってます。何を書こうか。程よく字数も稼げたところで、ここはやっぱり演劇に関わることを紹介していこうと思います。

 

今回は私の演劇史で大きな存在感を放っている戯曲をあえて「読書」する本として紹介したい。
戯曲を読書??と思うかもしれないがこれがなかなか想像力を掻き立ててくれるんです。

『ユウリディスの手』(ブラジル戯曲選/未来社)

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まずはひとつめ。こちらは、1967年にブラジルで書かれた知られざる傑作一人芝居です。中年男が寂れた屋敷にいる。彼は観客(架空のゲスト)に向かって断片的に語り出す。家族への不満、妻の変わりよう。若かりし日の憧れ。そして愛人ユウリディス、その手がどれだけ魅惑的か!そうなんです。このおじさんとんでもなくダメ男なんですね。愛人とモンテカルロへ逃げます。無一文になり愛人にも捨てられて家に帰って来たのです。しかし!このダメおじさんの語る妄想とも幻覚とも感じる話がとても愛おしく狂おしい程情熱的なんですね〜。そしてタイトルにある「ユウリディスの手」がエロいんです。手がですよ!幻惑的にエロいんですね〜(下ネタは含まれていません)読んでいくうちに引き込まれていきます。そして気付くんです。彼がいかに家族を愛しているか。愛したかったかを。不器用な男の可笑しくも愛おしい人生の挽歌。この男を誰が演じたら面白いだろう?あの俳優さんかな、この俳優さんかな?そんな想像を膨らませながら読むのも面白いんじゃないかと思います。

 

『親殺したちの夜』(ラテンアメリカ現代演劇集/水声社)

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続いてふたつめ。こちらは1966年キューバで書かれた作品です。タイトルからショッキングですが、バイオレンスなシーンはありません。

 

舞台は屋根裏部屋または地下室。

登場人物は3人の兄弟のラロ(長男)、クカ(長女)、ベバ(次女)。

3人は30歳前後の年齢。

若さは失っていない。時間は夜。
屋根裏に閉じこもって両親を殺害するという「ゲーム」を繰り返し演じる3人。
ゲームはその時その時で指示する人間が決まっている。
両親、隣人、警察官、裁判官、検察官、そして自分自身を役として演じてゆく。

 

あらすじはこんな感じです。何故3人は夜な夜なゲームをするのか?何故閉じこもっているのか?何故ゲームとはいえ両親を殺さなければならないのか?物語ではそのことは語られません。読んでいると何故?が千回位思い浮かぶでしょう。そうして読んでいるうちにある瞬間気づきます。何故の答えを想像し考える内に3人の言葉や会話、姿に自分を重ねていることに。この作品は登場人物がゲームを通じて常に自問自答しています。愛すること、自分の生き方を。とんでもなく普遍的なお題目なのですが、悩んで迷って右往左往している姿、そして彼らの言葉がエネルギッシュに胸を打つんですね。コロナで様々な歩みが止まってしまった今、だからこそ止まった歩みの中で考えられることがあるように思います。今だから是非触れてほしい作品です。

 

最後に、何故二作品ともラテンアメリカの作品なのか?父が結婚する前に乗船していた遠洋マグロ漁船での体験談、特に南米で起こった話が面白おかしく魅力的で強く印象に残っていました。ガチムチの黒人2人に押さえ込まれて蓄膿炎の手術をした…死ぬかと思ったそうです。ラム酒を飲み過ぎて船に置いていかれそうになった、マジで泣いたそうです。野蛮なエピソードからエッチなエピソード(多分ここでは書けません)そんなこんなで世界地図を見て妄想するのが好きになり、大きくなってからは「地球の歩き方」がバイブルになっていきました。高校卒業後は縁あってブラジルサンパウロのファベーラ(スラム)で半年間ボランティアとして過ごしたのは自分の人生観のマスターピースです。

 

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最後らへん話が脱線してしまいました。劇団では今年私の演出した舞台「親殺したちの夜」を持って韓国ツアーを予定しています。コロナの影響で先行きはまだまだ不透明ですが、諦めず前進していきたいなと思うと共に、早く舞台やライブができる日常が戻ることを願いながら締め括りたいと思います。

 

次のバトンは映画監督の中村研太郎さんです。研太郎さんは企画した映画の上映会で出会ったのですが、僕の中では北陸の鬼才なんだな〜。楽しみです。

 

 

本庄 亮(makoto honjou)
演出家、舞台監督、俳優。1985年生まれ。石川県出身。2008年劇団アンゲルスに入団。ほぼ全ての作品で俳優や舞台監督として関わる。海外公演にも俳優、スタッフとして多数参加。プロスタッフとしても多くの作品作りに関わる。2012〜2017 かなざわ演劇祭/いしかわ演劇祭のプロデュース、舞台監督。春川国際演劇祭(韓国)舞台監督として4度参加。イルクーツク国際演劇祭(ロシア)俳優舞台監督として2度参加。

 

○つながれ友達の輪!私のマスターピース

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