Kan Sanoの音楽的ライフ【観ずる日々】第９回：インタビューの話

インタビューを読むのが昔から好きだ。きっかけは十代の頃に読んだ宮﨑駿の「風の帰る場所」という本。ロッキングオンの渋谷陽一が聞き手となった何年にも渡るインタビューを一冊にまとめたもの。ジブリは幼少の頃から好きだったが純粋に作品を楽しむだけで、当時作り手の存在を意識したことは無かった。どのような思いが作品に込められているのか、ストーリーや演出の意図、完成に至るまでの苦悩や葛藤を知り、創作の奥深さと難しさを学んだ。作り手の思想や生き様は本人の意図に関わらず作品に反映されてしまうものだ。これは映画、音楽、漫画、あらゆるアートに通じること。その後、好きなアーティストや作品に出会うと必ずインタビューを読むようになった。

仕事柄たまにインタビューを受けることがある。読むのとはまったく違う楽しさがあり、感覚的にはバンドのジャムセッションに近い。聞き手の問いにその場で反応し、言葉のキャッチボールを繰り返しながらひとつの作品を作っていく。そこにはリズムがありグルーヴがある。ジャムセッションと同様にメンバー間の相性があり、上手くいく時といかない時がある。

予期せぬ話の脱線やアクシデントも受け入れ取り込んで進めていくのが僕は好きだ。逆に、プロフィールを丁寧になぞる形式的なインタビューは苦手だ。予定調和からは新しいものが生まれづらく、過去の取材と同じ話の繰り返しは新しい読者のために親切であっても、自分にとっては手応えのない退屈なものになってしまう。自分自身が楽しめるかどうかは大事なポイントで、楽しんでいる自分と聞き手のテンションは必ず文字に反映されると思っている。

取材後の文字起こしも重要で、編集能力に長けたライターは言葉の補足や省略に違和感がなくスムーズに読ませてくれる。数年前にミュージックマガジンのインタビューを受けた時は記録用の録音をしない取材スタイルだった。どんな記事になるのか少々不安だったが、完成した原稿は素晴らしい仕上がりでこちらから一文字も修正を希望しなかった。言葉を生業にするライターのこだわりと覚悟を見た気がした。

先月Rolling Stone Japanのインタビューを受けた。コロナ以降の音楽シーンと日々の暮らしについて話す企画で、聞き手は音楽評論家の柳樂光隆さん。とても話しやすい相手ではあるが、政治の話をどこまですべきか随分迷った。

【インタビュー】Kan Sanoが語るコロナ時代の表現と暮らし「音楽と生活、政治が地続きなのは間違いない」（外部リンク：Rolling Stone Japan）

そもそも自分にとって音楽、暮らし、政治はすべて地続きなもので、政治の話だけを避けるのは不自然だ。アーティストや芸能人が政治の話題に触れるたびバッシングを受ける風潮にはずっと違和感がある。もっと気軽に誰もが話せる状況を作っていかなければいけないと本当に思う。さまざまな考えや意見があるのは当然のことで批判し合うのも自由だが、発言する行為そのものを否定してしまってはその先の議論ができない。

しかし実際に取材を受け発言の自由を与えられると正直なところ怖かった。SNSを使い始めて10年以上になるが、すっかり周りの反応を気にしながら発信する習慣がつき、時に臆病になってしまっている。木村花さんの一件は自分が常々SNSに感じてきた怖さそのものだった。

今一度改めてここに記しておくと、僕は現政権を支持したことは今まで一度もないし、とっくに我慢を超えてもう何年もうんざりしている。それでも先日のタグや署名のように‬声を上げ、意思を示し続けることに意味はあると思っている。現政権の一番の味方は国民の「無関心」。無関心は時に罪なものだ。このコラムを書いている間にもアメリカのミネアポリスで暴動が起き大変な事態になっている。遠い国の出来事だがこれだって他人事ではない。あきらめず、黙って見過ごさず、調べて、考えよう。選挙で自分の意思を示そう。

6月は新曲のリリースと配信ライブ数本を予定しています。コロナが始まってから毎日更新しているインスタのストーリーズ。今後もしばらくは続けるので気軽に遊びに来てください。コメントやDMはぜんぶ見てるのでくれぐれも優しくお願いします！