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砂糖を使わずなぜ甘い?大聖寺の伝統菓子「吸坂飴」

石川県のとある小さな町で作られている「吸坂飴(すいさかあめ)」。

 

口の中に一粒放り込むと、懐かしい香りがフワッと広がり、まろやかな甘さとともにスッと溶けていく。

 

嗚呼、なんて儚い味なんだろう…。

 

飴屋がひしめく町、吸坂。

やってきたのは、金沢市に次ぐ県内第2の歴史都市として国の認定を受けたばかりの加賀市大聖寺

 

大聖寺といえば、藩政時代は石高十万石を誇ったイケイケな城下町。九谷焼や絹織物などの伝統工芸も数多く存在します。

 

 

大聖寺南東の高台に位置する吸坂町。ここには九谷焼の元祖ともいわれる吸坂焼があり、その窯火で炊いた飴が「吸坂飴」のルーツという説が有力。

 

寛永8年から炊いて練って380年。金沢の老舗「あめの俵屋」でも創業190年なのだから、もはや飴業界のフロンティアといっても過言ではないでしょう。

 

 

今でこそ住宅街となっている吸坂町ですが、かつてはメインストリートに27〜8軒の飴屋が立ち並ぶ、旅人御用達のスポット。城下町大聖寺と加賀温泉郷をつなぐ交通の要所でした。「肉体疲労時の栄養補給に!」なんて吸坂飴を頬張りながら、旅人たちは峠を越えていったわけです。

 

しかしながら飴のように甘くないのがこの世界。明治、大正、昭和、平成と時代の移り変わりとともに飴屋は少しずつ減少し、現在は「谷口製飴所」の一軒を残すだけに。果たしてこの伝統的な飴は、一体いつまで食べることができるのでしょう…。

 

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どんな味なのか、実際に食べてみた。

 

「この飴は、昔から栄養補給や滋養強壮の食品として、子供からお年寄りまで広く親しまれてきたんですよ。ミルクのない時代には水飴を溶かして赤ちゃんに飲ませたり、産前産後の女性や病人にも重宝されたそうですね」と、現役職人の谷口猛さん。

 

江戸の時代は旅人の大切な栄養源だったと言うのだから説得力は大。そのほかにも夏バテなどに効果があるのだそう。

 

 

原材料は米と大麦のみ。砂糖を使わずこれだけ甘いのは、麦芽の酵素が米のでんぷん質を糖化することで、麦芽糖という自然の甘味が生まれるから。食べ終わってまたすぐ手が伸びるのは、このしつこくない甘さがクセになるからだと推察します。

 

糖化に使用する水の質も大事。材料がシンプルなだけに、雑味のある成分が多く含まれていると、せっかくの麦芽糖の甘味や香りが台無しに。ちなみに吸坂町には、弘法大師が「ここの水めちゃくちゃ美味しいから飴でも作ったらどうや」と村人に進言した、なんて逸話も残されているそうで。後付けなのかもしれないけど、飴作りに適した場所なのは間違いなさそうです。

 

 

仕込みに1日、加工に1日。丸2日かけて、吸坂飴は完成します。

 

「加賀産のお米に麦芽とお湯を加えて4時間ほどかけて発酵したら、その汁を絞ってゆっくりと煮詰めていくと琥珀色の水飴(赤飴)ができます。さらに一晩おいた赤飴を伸ばしてくと、空気が入って白くなる(白飴)ので、これを棒状に固めて一口大にカットします」と谷口さん。

 

その中でも煮込んだ飴を窯から揚げるタイミングが一番難しく、その日の気温や湿度によって調整しているとのこと。早すぎると柔らかく、遅すぎると硬い。上質な生キャラメルのような食感は、谷口さんの緻密な計算によって成り立っているのです。

 

 

包装フィルムにくっつかないようオブラートで包まれた吸坂飴。これもなんだか懐かしい感じ。

 

ふわっと軽い舌触りながら弾力のある食感、そして郷愁を誘う素朴な甘さ。いくつ食べても飽きがこない、なんとも不思議な味。値段は400円前後と飴にしてはやや高めだけど、一袋(130g)に約30粒とボリューム十分です。

 

購入できるのは、イオン加賀の里店、山代温泉総湯周辺の売店、JR加賀温泉駅、小松空港など。甘くて儚い、ついつい手が伸びる魔法の飴を、ぜひご賞味あれ!

 

 

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(取材・文/BONNO編集部、撮影/林 賢一郎)

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