寿司より旨い「こっさめし」のおむすび
忘新年会ラッシュで酒が抜けない日々。毎年この季節になると、おむすびが恋しくなる。おにぎりではなくおむすびというのが大事で、申し訳ないけれどいつもお世話になっているコンビニのおにぎりでは、アルコールまみれの身体は癒してくれない。ふっくらと握られた優しいおむすびが、いいのだ。
加賀市にあるおむすび専門店『おむすび銀のめし』
松の枯葉とかまどで炊いた「こっさめし」
加賀市大聖寺に『おむすび銀のめし』というおむすび専門店がある。かまどで炊かれた、この地域に伝わる「こっさめし」の味が格別で、寿司より旨いなんて絶賛する人もいるほど。福井との県境にある海沿いの小さな町にありながら、朝6時半の開店から出勤前のサラリーマンやサーファー、釣り人などが次々と訪れていく光景が、その美味しさを証明している。
松中さん一家が切り盛り。
おむすびの具材は約30種類。
「地域の催しでこっさめしを炊いたことがあってね。子どもたちが美味しそうに食べるんですよ。そんな姿を見ていたら、こっさめしをもっと色んな人たちに食べてもらいたいと思うようになって。60歳を過ぎてからお店を開いちゃいました」
そう話すのは、店主の松中滋さん。こっさと呼ばれる松の枯葉を燃料に、かまどの強い火力で一気に炊き上げるのがこっさめし。これを朝の3時に店に出て、炊き上げるのが松中さんの一日の始まりとなる。
店主の松中滋さん。
松の枯葉で一気に炊き上げる。
米が炊き上がるまでの13分、絶えず枯葉をくべながらかまどの様子を見守る松中さん。「油分を含んでいる松の枯葉で炊くことで、ちょうど良い火加減になるんですよ」というように、かまどがうれしそうにゴボゴボと音を立てている。
炊き上がったのは、一粒一粒がしっかりとしたツヤツヤのごはん。水分をたっぷり含んでいるから冷めても美味しく、おむすびとしては理想的。噛めば噛むほど、ほんのりとした甘みが口の中に広がる。
艶やかな白米に思わずうっとり。
味噌もベーコンも、具材は手づくり
おにぎりではなくおむすび。この違いを出すために松中さんは、ごはんの粒と粒の間に空気を入れながら作ることを心がける。ふっくらとして口の中でほどける。この絶妙なむすび加減が、こっさめしの美味しさを何倍にもして伝えている。
「今でも、塩むすびを頼まれると緊張しちゃうね」
そんな言葉からも、松中さんがいかに「むすぶ」ということに気を遣っているか分かる。
筆者のお気に入りは、醤油漬けの大葉(右)180円。
とろろ昆布と海苔が選べる。
おむすびの具材はほとんどが自家製。手作り味噌を仕込んだり、ベーコンをスモークしたり、へしこやキーマカレーなんかも作ってしまう。
「毎年、ちょっとずついい味になるように、試行錯誤しながら楽しんでやってます」
手間のかかる作業も、今では松中さんの立派なライフワークとなっている。
カリッと焼いた自家製ベーコン。
松中さんのおすすめは、味噌を仕込むときに樽の底に敷くおからと麹を混ぜた「まちかね」。味噌が出来上がるまでに1年、食べきるまでに1年。2年かかってようやく完成するため、まちかねと呼ばれているそう。みりんと一味で味を整えて、おむすびに塗ってさっとひと炙り。素朴で香ばしい、どこか懐かしい味わいだ。
まちかね150円。
日本人に生まれて良かった。本当に美味しいおむすびを食べると、無意識にそう感じてしまう。松中さんが作ったおむすびを食べながら、今まさにノスタルジーに浸っている。
おむすび銀のめし
石川県加賀市大聖寺瀬越町イ21-1
TEL.0761-73-8011
営業時間/6:30〜8:00、11:00〜14:00
定休日/木曜、第2水曜日
席数/カウンター4席、テーブル8席
駐車場/10台以上
※こちらの情報は取材時のものです。
(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)