【爆裂地方都市】第1話:40年前の金沢に日本で唯一のアンダーグラウンド音楽専門誌が!
北陸のタウン誌「BonNo」にて2011年から細々とコラムを連載していたのですが、石川県がもっと楽しくなるウェブマガジン『ボンノ』としてインターネット版にリニューアルしたので僕もこちらに引っ越して再開したいと思います。再会。石川県、金沢、地方のことを中心に音楽や本や泣き言を無理やり絡めながら脱線ありつつ脱稿していきますのでよろしくお願いします。
さて、昨年のことですが、オヨヨ書林せせらぎ店に立ち寄ったときレジ前に無造作に積んであった、まだ売り場に出す前であろう古本をたまたま手にしたら『AVANT-GARDE(アヴァン・ギャルド)』というタイトルの古びた手作り冊子、今でいうところのZINEでした。見ると「金沢アンダーグラウンダーズクラブ」略してKUCという団体が発刊していた月刊誌で、ここにあるのは第7号、発行日は1977年8月10日とクレジットされてました。
『AVANT-GARDE(アヴァン・ギャルド)』KUC/1977年8月10日発行
表紙のキャッチコピーは「本邦唯一のアンダーグラウンドミュージック専門誌」…42年前、日本でだたひとつのアンダーグラウンドミュージック専門誌は東京でも大阪でも京都でもなく金沢にあった!ホントはそうじゃなくても、そう断言している熱さと若さが胸に刺さります。でも阿木 譲編集長の「ロック・マガジン」創刊が1976年2月ということらしいので「本邦唯一」がハッタリではないというか、今より情報量がめちゃくちゃ少ない地方都市でこんな冊子を月刊で発行していたなんて驚異です。
『AVANT-GARDE』は金沢の音楽スポットで販売していたようで、取り扱いショップは当時もっきりやの2階にあった輸入レコード店「ハイドパイパーハウス」、現在新天地でBAR「HAKASE」の店主をされているハカセこと荒木さんの店「鳩」、金沢倶楽部(現クラビズム)元編集長でBAR「ガレタッソ」店主だった故・ニキさんの店「不思議屋」、東山にあったジャズバー「サーカス」などと並んで現在僕が2代目として継いでいる「JO-HOUSE」の名前も(当時は「じょーHouse」という明記)。おそらく現在73歳のJO-HOUSE先代マスターも30歳くらいの頃か…若いですね!取扱い店リストや機関誌の協賛スポンサーリストを見ると、現在も続いてるのはJO-HOUSEとvanvanかなぁ。42年、歴史を感じます。
歴史を感じる取扱い店リストや機関誌の協賛スポンサーリスト。
内容もまさに看板に偽りなし、今の時代から見てもアンダーグラウンドな音楽情報満載かつ先鋭的・好戦的なトンガってる内容で、流行りの音楽や人気音楽評論家を容赦なくバッサリ斬りまくり。巻頭特集の「KCU座談会・金沢のレコード店あれこれ」は70年代の金沢レコード屋事情を垣間みることができて、現在のレコードジャングル(1983年創業)以降、エブリデイレコード、ビーチパーティ、エスタシオなどしか知らない世代の僕にとっては大変貴重な史料となりました。旬を切り取った情報や表現は賞味期限が早いけど、長年寝かせたら歴史となるんですね。彼らは「金沢には(自分たちの好きな)アンダーグラウンドな音楽を取り扱う気概のあるレコード屋がない!」と憤ってます。まあ、商売ですからね…そこは今のレコード屋さんも雑貨屋さんも服屋さんも一緒というか、売りたいものと売れるもの、やりたいことと求められてること、続けていくこと、いつだって難しいです。
そして第7号の特集は「イタリアのアンダーグラウンドミュージックの研究」と題してレーベル別の音楽性やミュージシャンを紹介。イタリアン・アンダーグラウンドの正統派的異端児と言われるエウジェニオ・フェルナンディというアーティストに4ページも割いて猛プッシュしています。全然知らなかった…
他にも「三大ギタリストはエリッククラプトン、ジミーペイジ、ジェフベックではなくスティーヴヒレッジ、ロバートフリップ、フランクザッパだ!」という記事や、当時デヴィッドボウイとアルバム制作をしていたブライアンイーノに対しても「イーノ!あんなオカマとひっついちゃいけん!音楽性が低下するよ」と警鐘を鳴らしてたり(ボウイでさえも彼らの敵なのね。オカマって…)
特に当時の若者たちに支持されていたイーグルス、ドゥービーブラザーズなどに代表されるウエストコーストロックは、アンダーグラウンド原理主義的なKUCにとっては資本主義に毒された産業音楽として明確な敵だったようで、ウェストコーストブームに便乗して儲けているイベントプロモート会社も、流行として消費するだけのリスナーも、上から仕掛けられたブームを鵜呑みにするファンも許しがたい存在だったようです。挙げ句の果てに石川県を代表する名ロックバンド・めんたんぴんを「低劣バンド」呼わばり!反体制的で不良の憧れだと思ってためんたんぴんを敵視する勢力もいたんですね。とにかく彼らにとってウエストコーストロックとは「空虚で、思想的無内容で、権力批判の皆無、生活向上意欲の薄さ、現実感の乏しさ、スターダムヒエラルキーへの憧憬、個人主義と自己満足の風潮を青少年に垂れ流し培養していく音楽」とけちょんけちょんにこき下ろし、「このような音楽に未来はない!」と断言。音楽を愛するあまりに相手が「どんな音楽が好きか」で人間性を判断したり、自分の愛する音楽が多くの人に認められないことへの苛立ち、僕も若いときは少なからずありました。いや40代になった今でも「なんであんなのが人気なんだ!」と音楽以外のことでもやっかみ半分で憤慨することある!めっちゃある!
ロック評論家のカリスマ渋谷陽一さんに対しても「なぜかアンダーグラウンドミュージックだけは避けて通る」「ロック全般に対する分析の幅がない」「彼の主宰する読み応えのない雑誌Rockin’On」「自分の好きな音楽的傾向については一面的に鋭く、それ以外に対しては全くの無能力」と超辛口評論でニヤッとしましたが筆者も読者も本気なので真面目に読みました。現在の価値観で過去を笑ったりするのは先達に失礼なのであります。
あと興味深かったのが新譜ディスクレビュー欄でザ・クラッシュ「白い暴動」が紹介されていて、今ではパンクロックの定番中の定番な名盤アルバムですが、ここでは「ま、もうちょっと洗練(せめてイギーポップくらいに)してほしい。まだ荒削りな所が魅力になりきってないから」とピリ辛。金沢のアンダーグラウンドミュージックシーンに遂にパンクが登場した瞬間に後追いでも立ち会えたみたいでドキドキします。
この『AVAN-GARDE vol.7』はオヨヨ書林せせらぎ店のナツさんから「これは入荷したときからモカ君が持っておくべきだと思ってたので差し上げます。お代は要りません」と言われたので有り難く頂戴いたしました。
ふと駄目元で『AVAN-GARDE』をネット検索してみたら現在も金沢を中心に即興ヴァイオリニストとして活動中の島田英明さんのホームページを発見。島田さんによるとKUCは1976年に金沢大学の哲学専攻の学生や民青の学生が中心になったレコード鑑賞サークルとして結成され、メンバーの志向だったフランク・ザッパやソフト・マシーンやその周辺を掘り下げたり金沢では入手困難なアンダーグラウンドな情報やレコードを紹介する機関誌『AVAN-GARDE』を創刊。KUCは全盛期には社会人や中高生を巻き込んでメンバーが100名以上いたというからすごい勢力になってます。島田さんは高校一年生の時にレコード屋さんで試聴していた所をKUC幹部にスカウトされてメンバーになったそうです。
KUCは主要メンバーの就活で1980年に解散ということで後継者を見つけて継続はせずなくなったようです。時代はロックからパンク・ニューウェーブに変わっていく時期。「私達KUCは金沢の音楽的諸状況を現実的・具体的に変革すること、広大なアンダーグラウンドの地平をこの地に建設することを目的とする団体である。そのためにはコマーシャリズムや自己満足などの風潮、又アンダーグラウンドと相容れない音楽的傾向と思想及び運動と戦わなければならない」フォーク以降パンク前夜の40年前の金沢にこんな団体がいてZINEが発行されていたことは当時を知る限られた人の記憶の片隅だけで止まって誰にも振り返られずに忘れ去られ、消えてなくなったことになっています。現在金沢で活動しているアーティストやクリエイター、作家さんたちの残したものは40年後に生きる若者に触れる機会があるのかな、と思いながら『AVAN-GARDE』を勝手に紹介させてもらいました。
◯僕らのローカルシティポップ【爆裂地方都市】
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執筆者プロフィール
モカ
学生街のブラッスリー『JO-HOUSE 石引』2代目カレーマスター/私設公民館『じょーの箱』大家さん。もうすぐ若者ぶらずにおっさんの武器も使えるいちばん旬なとき、さみしさは昔よりも現実味おびてきたね…でも明日はくるSweet Sweet 43 Blues。