日本酒はラグジュアリー、熟成酒の魅力|酒蔵若女将のまんでまいッ!#09
- まんでまいは、能登弁で「とても美味しい」の意。奥能登の酒蔵を支える若女将たちが地元ならではの酒肴を紹介すると共に、日本酒の魅力について愉しく語ります。
皆さまこんにちは。暖冬かと思ったら大雪になった極寒の能登半島。松波酒造の若女将、金七聖子です。
ただいま酒蔵は仕込みハイシーズン。朝は米を蒸し、黒瓦に映える白い湯気が町に酒造りの様子を伝えています。この厳しい能登の自然と、100年以上続く能登杜氏、木造建築の酒蔵が醸す新酒が少しずつ誕生しています。おいしいげんよ!
私自身は製造を担当しておらず(利き酒は担当)、商品企画やEC全般とイベントや酒蔵見学、そして海外にも日本酒の楽しさや美味しさを広げることを考えています。
「日本酒は人との縁を繋ぐもの」
美味しい飲み物以上の価値があると、この業界に従事した前世紀より思っています。
今月は、縁と自然と伝統から昇華されて完成した「熟成酒(じゅくせいしゅ)」についてお話します。
日本酒は主に寒仕込み(秋の新米で冬季に一年分の酒を造る)が多く、とくに家族で営む酒蔵はまさに11月から3月が製造時期です。冬季はできたてそのままを味わえる「活性にごり酒」や「生原酒」として出荷し、そのあと大半は火入れ(加熱殺菌で酵母を失活させる)をし、タンクやボトルに移して専用の場所で熟成を行います。これらが約1~2年分となります。出荷が進むとそこからお酒が商品となって旅立つわけですが、美味しくなる日を待ち望んでゆっくり寝かせる。zzzzz
そしてさらに寝かせると、古酒(こしゅ)や熟成酒と呼ばれるようになります。一般的には、製造後3年以上経つと古酒と銘打つことができます。お蔵ごとにいろんなポリシーや物語もあると思いますが、松波酒造では20年前から取り組んでいた熟成酒が、自然の力と酒本来の強さで花開き、縁がつながって昇龍のようなアートな日本酒が誕生しました。
「双心 SOUSHIN」
バックグランドのお話はまた別の機会としまして、蔵元すら驚く熟成の妙!自然環境もお酒の風味に大きく関わっているんですよ。
ワインやウイスキーなど、世界に広がるお酒は熟成してからの魅力をまとっています。日本酒はワインに比べると、超長期保存をする文化と歴史がまだ浅い。とはいえ能登は発酵が豊かな土地で、調味料や食文化において熟成という考え方は身近で、それは美味しさのみならず保存食の観点から同じです。
小さな酒蔵でも日本酒にその可能性を見出せるか、それともできる範囲でやってみるか…。
脱炭素エネルギーが声高に言われていますが、私たちの蔵は昔のままの木造建築で、すぐ側には松波川が流れています。空気が常に入れ替わる立地ゆえに真夏でも蔵内は意外に涼しく、冷蔵設備は一部のみ。そう、自然のままなのです。
今から20年前、より良い熟成酒を作るために、100年前の酒造りとほぼ同じ蔵道具(和釜、木製の槽)で、真冬に造った力強い本醸造原酒と純米酒を静かな貯蔵スペースで管理することにしました。熟成酒開発を続けるためには無理のない貯蔵とお酒のセレクトが要。造り手(杜氏)の歴史を乗せて、時間を経て色や香りが徐々に変化する様を利き酒しました。
並行して香りの高い吟醸系のお酒を冷蔵貯蔵し、数量限定での販売もしながらお客様の反応やペアリングを一緒に考えることもあります。「面白い秘酒はありませんか?」そんな兵には「5年熟成の火入れにごり酒」もおすすめしたり…。
熟成古酒と言えば、琥珀色で甘みが深くて紹興酒のようなイメージを持たれることが多いです。しかし、本物の古酒は飲んだことのない人が大多数。居酒屋さんにはあまりないし、初見でボトル購入はハードル高め。まだまだ研究も必要だけど、日本酒の枠にとらわれない可能性を秘めているのが熟成酒です。購入後にご自宅で熟成させる楽しみもあるんですよ!
テイスティングやペアリング、そして…私でも思っていた方向とはまた違う味。日本酒とはまた別ジャンルです。表現を広げるために、東京で活躍するバーテンダー、シェフ、上海や香港のお酒の関係者の方々に、先入観無し(ボトル見せずグラスに注がれる)の状態で、味わっていただきました。フレンチレストランや和牛割烹でお酒に合わせたコースを味わいながらお客様にも味わっていただきました。
その時に、日本酒と能登の自然と造り手のバランスが完璧にはまりエイジングをプラスして唯一無二のお酒になりました。味わいに高い評価をいただき「日本酒はラグジュアリー」である、最高アーティスト・デザイナー・日本の技術者が集まりプロダクトが完成。20年前には思いもつかなかった未来が熟成という年月で拓かれました。
ご縁をいただいた方々も沢山いらっしゃるのですが、11月16日には上海で開催された「ハーパーズバザー(Harper’s BAZAAR)アートナイト」の公式SAKE(日本酒では初めて)として提供されて大きな反響をいただきました。さらにはハーパーズバザーHKから最高級SAKEブランドとしてリリースも決まっています。
双心の情報はInstagramにて
2024年辰年、昇龍のように皆様にも素晴らしいご縁やHAPPYが訪れること、そしてそんな時には日本酒で乾杯が沢山増えることを心より願っています。