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【HAND】ハンドドリップに愛を込めて(珈琲店マスター・松永茂)

金沢はコーヒーの消費量が全国トップクラス。茶の湯の文化から派生した喫茶文化はいまや市民権を獲得し、いつでも気軽に自家焙煎の美味しいコーヒーが飲めるようになった。

 

石川県庁の裏手、金沢市西都にある『チャペック』は、1985年の創業から金沢のコーヒー文化を牽引し続ける自家焙煎珈琲の専門店。マスターとして店に立つのは、名門「カフェ・バッハ」の店主、田口護氏に師事した経験もある松永 茂さん。日々のハンドピックとハンドドリップのふたつの手作業は、店の味を守るための大切な仕事でもある。

 

松永 茂(まつなが・しげる)
1958年石川県生まれ。自家焙煎珈琲屋『チャペック』のマスター。大学進学を機に上京。東京都南千住の名門「カフェ・バッハ」で学んだ後、1985年に金沢で独立。以来、金沢のコーヒー文化を支えている。

 

丁寧なハンドピックで欠点豆を除去。雑味の少ない味に仕上げる。

松永さんのコーヒー人生が始まったのは学生時代。喫茶店でのアルバイトがきっかけだった。その後、名門「カフェ・バッハ」で飲んだコーヒーのあまりの美味しさに衝撃を受けて、自家焙煎のコーヒー屋を目指すように。縁もあって「バッハ」の門を叩き、コーヒー界のレジェンド・田口 護氏の教えを受けることになる。

 

丁寧なハンドピック。これは松永さんが定める「良いコーヒー」の条件を満たすために欠かせない仕事。焙煎する前の生豆の状態で1回、そして焙煎後にもう1回と、2回のハンドピックにより雑味のもとになる欠点豆を取り除く。

 

ハンドピックされたコーヒー豆を焙煎するのは、岡山の大和鉄工所が製造する「マイスター」。愛称はトーマス。この焙煎機にスイッチを入れると松永さんの一日が始まる。いつでも新鮮な豆を提供できるよう、毎日少量ずつ焙煎。豆の個性を生かした焙煎度合いで、芯までムラなく煎りあげる。

 

店内の様子。

 

喫茶店時代に身につけた技で、ハンドドリップをこなす。

ハンドドリップにも松永さんなりの流儀がある。カウンターの前に並べられたドリッパーへとお湯を注ぐ。そのポットをよく見ると注ぎ口がそれほど細くない、昔の喫茶店でよく見たシンプルな形であることに気づく。これも喫茶店経験の長かった松永さんだからこそなせる技。これだと一度にたくさんの量を注げるので、とくに忙しいときは重宝するそうだ。

 

ちなみに美味しく淹れるコツは沸かしたお湯を少し冷ますこと。浅煎りの豆なら85〜86度。一度、全体に行き渡るお湯を注いで30秒ほど蒸らしたら、あとは中央から外へ円を描くように数回に分けてお湯を注ぐ。このときにペーパーの中の泡が落ち切る前に、次のドリップに取りかかると雑味の少ないコーヒーに仕上がるそうだ。

 

あせらずゆっくり。

 

そんな松永さんには、十間町時代に出会った若者との忘れられない思い出がある。

 

「美大生が店の前で写真を撮っていて。店の中に入るとおもむろにスケッチブックを開いて絵を描き始めるんです。話しかけてみると、どうやら中学生のときに親に連れられてきたことがあるらしくて。古めかしい外観が記憶に残っていて、数年ぶりに一人で訪れたみたいなんです」と松永さん。

 

「これはその子が描いた絵。最近は海外でも評価されて、人気が高まっているんだ」。そう言いながら、大切に飾られた絵を眺める松永さんの目は、いつもより輝いていた。

 

 

チャペック
石川県金沢市西都1-217
TEL.076-266-3133
営業時間/10:00~19:00
定休日/火曜日
駐車場/8台

※こちらの情報は取材時のものです。

 

(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)

 

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