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【HAND】千年先を見据えたものづくり(仏師・坂上俊陽)

仏像と向き合った瞬間に心が洗われるのはなぜだろう。仏像彫刻界のカリスマ「運慶」が生み出した仏像が、千年の時を超えてもなお現代人の心を動かしているように、仏像には仏教の世界観を伝える以外のなにかが宿っている気がする。

 

坂上俊陽(さかがみ・としはる)
1984年千葉県生まれ。高校卒業後、富山県南砺市の伝統工芸「井波彫刻」の仏師に弟子入り。5年にわたって技術を学ぶ。現在は工房を金沢市に構え、海外でも展示会を行うなどグローバルな活動を続けている。

 

金沢市にある工房で仏像を彫る坂上俊陽さん。

 

生涯かけて打ち込める仕事がしたかった

坂上俊陽さんは、金沢で数少ない仏師のひとり。大量生産された海外製の仏像が多く出回る中、全国の寺院や個人を対象としたオーダーメイドの仏像をつくり続けている。仏師になるまでは富山県南砺市の伝統工芸「井波彫刻」で修行。ものづくりの仕事を目指したのは高校生のときだった。

 

「生涯をかけて取り組める仕事がしたいと考えたときに、ものづくりが一番しっくりきたんです。仏師の仕事を選んだのは、自分が彫った仏像が多くの人たちの祈りの対象となることに喜びと責任を感じたから。これなら一生やっていけると思いました」

 

坂上さんが手がけた仏像の一部。

 

仏像づくりは木材選びから始まる。使用するのは国産の木曽ひのき。カンナをかけると平滑で艶のある美しい仕上がりになるのがその理由。耐久性にも優れていて、世界最古の木造建築物として知られる法隆寺にもひのきが使われているそうだ。

 

「日本のひのきは柔らかくて加工もしやすいんですが、木目によっては彫りづらい部分もあります。そんなときは刃を研いだり、数百本の彫刻刀の中から材料や形状に合ったものを選んで、なければ鍛冶屋さんに作ってもらったりもします」

 

修理のために漆を塗ったり、金箔を貼ったり、オールラウンドな技術と知識が求められるのも仏師の仕事。何段にも重ねられた道具箱が、仕事の幅広さを象徴している。

 

材質や形状によって数百本の彫刻刀を使い分けている。

 

オーダーメイドにこだわるのには理由がある。

 

「亡くなった大切な人の菩提を弔いたい。そうした切実な祈りに寄り添う仏像をつくるためには、顔立ちや表情などきめ細かく表現する必要があります。なので、図案を作成した後もご依頼主のイメージと合致するまで、修正に一ヶ月以上費やすこともあります。スピードも大事ですが、できるだけ顔を合わせて時間をかけて良いものを作りたいというのが本音です」

 

自然の光を斜めから当て、陰影を確かめながら作業する。

 

仏師の仕事を紹介するためYoutubeでは製作風景も公開している坂上さん。フランスやイギリスなど海外でも展示をするなど、その活動は多岐にわたっている。

 

「仏像というものを英語で紹介するのは難しくて、伝える側に詳しい知識がないと間違った捉えられ方をしてしまうんです。それって危険なことで、仏像だけでなくその背景にある仏教の文化さえもミスリードしてしまう。だからこそ、自分の作品はできるだけ自分の言葉で伝えたいんです」

 

 

「手仕事の先には大切な人を思う気持ちがある。その思いを仏様にするのが私の仕事だと思っています」と坂上さん。彫刻刀を握るその手には、素直で偽りのない、美しい心が表れていた。

 

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(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)

 

 

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