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【HAND】鬼瓦づくりの伝統を未来へ(鬼師・森山茂笑)

厄除けとして多くの家屋を守り続ける鬼瓦。製作には精巧な技術と強い精神力が必要とされ、その鬼瓦を作る職人は瓦職人から尊敬の念を込めて「鬼師」と呼ばれている。今回は県内に一人しかいない鬼師の森山茂笑さんに会いに行く。

 

森山茂笑(もりやま・しげしょう)
1973年小松市生まれ。高校を卒業後、大阪の製菓専門学校に進学。パン職人としてホテルのベーカリーに9年勤めた後、地元にUターン。鬼師の大橋弘笑さんに弟子入りする。

 

小松市にある工房で鬼瓦を製作する森山茂笑さん。

手の感覚を頼りに繊細な土を形にする

鬼瓦の起源はかなり古く、シリアにあるパルミラ遺跡の入口に厄除けとして飾られていた怪物メドゥーサがシルクロードを経由して中国へ伝わり、日本では奈良時代に全国へと広まったそう。寺院や城郭に使われていた鬼瓦が一般の民家にも飾られるようになったのは江戸時代になってから。屋根葺きのトレンドが藁から瓦へと変わり、ようやく庶民のものになったそうだ。その精巧な作りと威厳のある佇まいから芸術作品としても高い評価を得ている鬼瓦。奈良時代から室町時代にかけてつくられた作品のいくつかは、国の重要文化財として国宝館にも安置されている。

 

森山さんが手本とする師匠、大橋弘笑さんの作品。

 

「師匠のようにシャープな流れや勢いのようなものをもっと表現できるようになりたい」と森山さん。

 

鬼師の仕事はデザインから手作業による造形、重さ30キロにもおよぶ土の塊を持ち運ぶ力仕事まで幅広い。雲や水、炎をイメージした図面を型紙に描き、こねた土を盛って、金べらで削って形にする。ひとつの作品を2〜3ヶ月かけて仕上げ、窯元で焼いてようやく完成する。「土は焼いたら縮むので、それをいかに計算できるかがデザインのコツですね。色々な道具を使いながら細々としたパーツを組み合わせていくので、鬼瓦職人は『土の大工』とも言われているんですよ」と森山さん。まともな鬼瓦を作るまでに3年はかかったそうだ。

 

土台をしっかり作らないと全体のバランスが悪くなり、壊れやすくなる。

 

金ベラやカキヤブリなど様々な道具が使われる。

 

瓦葺きの民家が減り、現在の注文は大半が寺社向け。衰退が避けられない伝統産業に身をおく森山さんのモチベーションは意外なところにあった。「鬼瓦は土地の人々が何百年も守り続ける寺社の一部。師匠からもそうした気持ちを裏切らないよう、ひとつひとつ心を込めて作るようにと教えられてきました。地域の暮らしや文化に携わることを光栄に感じながら、できる限りこの受け継がれてきた技を後世に伝えたいと思っています」。

 

安宅住吉神社に鎮座する鬼瓦。師匠と共同で製作した思い入れのある作品。

 

屋根の上から人々の喜びや悲しみを見守り続ける鬼瓦。その力強い眼差しは、地元の伝統工芸を未来に引き継ごうとものづくりに切磋琢磨する森山さん眼差しと、似ている気がした。

 

(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)

 

 

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