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坊主が上手に丈夫なデニムを縫いました〈ボーズソーイング〉

石川県能登町にある「遍照寺」。

 

高野山真言宗を宗派とし、加持祈祷の寺として近隣住民からも親しまれるこのお寺に、僧侶とデニム職人の二足のわらじをはく青年がいます。

 

 

数年前まで縫製職人として岐阜の工場で働いていた前野真慶さん。現在は実家の寺の跡取りとして、お勤めに励んでいます。

 

僧侶になったのは3年前。もともとは縫製工場を退職して独立するつもりでしたが、住職である父の勧めもあって高野山にあるお坊さん養成学校で1年間修行を積みました。

前野さん

てっきり兄貴が寺を継ぐもんやと思ってたから寝耳に水。でも、親父の頼みやし断るわけにもいかん。1年くらい寄り道してもいいかなと思ったら、卒業後に寮監(学生の指導役)を頼まれたりして。結局、3年ほど高野山におりました。

能登町に戻ったのは昨年4月。檀家を持たない祈祷寺の財政的な厳しさに直面し、自身の生活の糧とするため、兼業という形で今年夏に自身のブランド「ボーズソーイング」を立ち上げます。

 

ワンウォッシュ後に乾かされたデニム。詳細はのちほど、たっぷりと。

1台のミシンで縫い上げる

前野さんが縫製の「楽しさ」に目覚めたのは大学を卒業してすぐ。激やせしたことで着る服がなくなり、実家にあった家庭用ミシンでズボンを詰めたのがきっかけでした。

 

その後、当時よく通っていたセレクトショップのスタッフと工場見学をした勢いで、岐阜の縫製工場で働くことになります。

前野さん

働きたければ1週間以内にジーパンを作ってこいと言われて。自分も負けん気の強い方やから、やったるわい!という感じで。帰り道にセカストで古着のジーパンを買って、どんな風に縫われてるか調べながらバラして。とにかく無我夢中で縫ったんを覚えてます。

それからスキルを磨くため、5年ほど勤務。メンズのカジュアルならひと通りの洋服が縫えるレベルの技術を身につけます。

 

縫製工として働くさいの試金石となったジーパン。前野さんにとっての思い出の品でもある。

 

前野さんが縫製するデニムの最大の特徴。それは「本縫い折伏せ」という昔ながらの縫い方にあります。

 

一般的には用途に応じて複数のミシンを使って縫われるデニム。これを前野さんはボタンホール以外の全てを、1本の針を使って上糸と下糸で縫う「本縫いミシン」だけで縫い上げます。

前野さん

ステッチを1本ずつ入れる地道な作業。手間は倍近くかかるけど、全ての工程に思いを込めることで、手にする人の心を少しでも満たすことができればと思っとるんです。

左がロックミシン、右が本縫いミシンで縫製したもの。見比べてみるとその違いがよく分かる。

 

リベットはひとつひとつ手作業で頭潰し。シンプルかつクラシカルな縫製ともマッチしている。

 

生地は旧式織り機で織られた表情豊かな国産デニムを使用。BS-101 23,000円。

 

生産性や効率化とは逆行した、手作業ならではの温かさ。道具ひとつにこだわるその姿勢からは、質素な暮らしを信条とする僧侶ならではの思いも伝わってきます。

 

寺の敷地内にある工房で、ミシン1台にこだわり縫製に没頭する前野さん。これぞ無我の境地。

 

二枚の生地をくるみながら地縫いで合わせ、さらにステッチを入れる本縫い折伏せ。根気のいる作業だ。

 

型紙の作成から裁断、縫製まで、一貫して前野さんが担当。生産は受注制となっている。

 

そんな前野さんは自他共に認めるミシンマニア。ゆくゆくはボーズソーイング寺小屋を開設して、地域の人たちにミシンの魅力を伝えたいんだとか。

 

本縫いにこだわるのも「ミシンの可能性を最大限に引き出したいから」という理由が大きいそうです。

 

ミシンを初めて購入したのは寮監時代。生徒の破れた衣を縫ってあげていたそう。

 

高野山真言宗の僧侶として、朝夕のお勤めのほか、参拝客の案内などもしている。

 

「デニム作りを通して多くの人の心を満たすことも、仏教が説く心の豊かさや余裕につながるはず」という前野さん。ボーズソーイングのこれからの展開が楽しみです。

 

最新情報は前野さんのInstagram(@bouzusewing)をチェック!

 

 

(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)

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